一応説明しておきますと、「FLCL(フリクリ)」とは2000年~2001年にかけて全6巻で発売されたOVA作品です。
監督は鶴巻和哉、キャラクターデザインは貞本義行氏で「新世紀エヴァンゲリオン」で一躍世間一般的にも注目を浴びる事になったガイナックス制作のオリジナルシリーズでした。
私は残念ながら「エヴァンゲリオン」が特別好きでもなかったので、「フリクリ」なんて全く知りもしなかったんですが、後に何かの拍子で観る機会がありました。
当時の感想を覚えているのですが、とりあえず1話を観た直後は「??何だコレ」というモノでした。
人に内容を説明するのが難しく、私の中では「SFロックカルトアニメ」と言う、他に類を見ない位置づけです。
作画がずば抜けて綺麗だとか、話の展開がめちゃくちゃ面白い、という訳では全く無く、アンニュイ且つロック且つ破天荒といった支離滅裂な作品なんですが、不思議な魅力があり、何度も観たくなる作品でした。
なので結局、DVD-Boxを買いましたね(当時はBlu-rayじゃなかった)。
それぐらいには好きな作品です。
たまたま映画館に貼ってあるポスターを見て、今年、前作から18年ぶりに続編が作られた事を知りました。
フリクリ・オルタナティブは前作のように6話?構成になっており、毎話エンドクレジットが流れるわけではありませんが、エピソード毎にサブタイトルが付いていました。
OVAを全話まとめてつなげ、劇場版として公開している形式ですね。
当然尺は話数分の合計になっており、オルタナの劇場公開時間は135分もあります。
Blu-rayを買うかと問われれば、きっと買ってしまうに違いない作品
「フリクリ・オルタナティブ」を観た感想ですが、私は好きです。
好きですが、人におススメできるかと言うとできません。これは前作も同じです。
前作ほど特殊ではありませんが、確実に人を選びます。
逆説的に、前作の特殊性が好きだったファンからすると、オルタナについては「なんか普通になったな」と思うんじゃないでしょうか。
全く知らない人にどんな内容の映画なの?と聞かれたら「低予算邦画に良くありがちな青春群像劇」としか答えようがないです。それが悪いってワケではなくて。
実写の邦画でも似たような作品ってありそうなんですが、あったとしても痛痛しくて5分と観れたものじゃないでしょうね。
ですが「フリクリ」の場合は、ガイナックス臭のする妙なSF設定と、アニメであるという点で、ちゃんと楽しんで観れる作品になっています。
そんな評で良くBlu-ray買うとか言えるな、と思われるかも知れませんが、こういったカルト系作品は、理屈と言うより感覚で「自分でも理由は良く分からんがなんか好き」というのが全てなんですよね。
話が凄く面白いか?
・・・別に。
前作と同じ世界であるという意味では、巨大アイロンはやっぱりラスボスとして出てきます。
作画が凄く綺麗か?
・・・別に。
「このすば」を彷彿とさせる画面です。
動きが凄いとか?
・・・別に。
前作もそんなに動いている印象は無いんですけどね。
あずにゃんぐを所持している身としては、67年型マスタングのネックを持って武器として叩きつけるって映像は、前作からそうなんですが嫌な汗が出てきますね。
まぁそういう事言っちゃいけないんでしょうが。
キャラクターが魅力的?
・・・ラハルは相変わらずクールだけど、影薄くなりました。
メインキャラ4人の女子にいたっては「モブキャラ」。
音楽が良い?
・・・普通では。
というか、カッコイイんでしょうけど、同じような曲ばっかりですね。
前作との違いが分かりませんでした。
前作のEDテーマ「Ride on shooting star」に匹敵するインパクトは全く無かったです。
感動する?泣ける?
自分は泣けました。
17歳女子同士の友情とか別れとか、ベタなんですがグッときます。
イマイチ感情が量れないペッツ(辺田友美)が、モッさんのハンカチやら、聖のシャーペンやら、別にパッとしないものを何故か欲しがって交換する、というシーンがあります。
これが最後のオチで、ああそう言う事だったのね、と非常に分かりやすく回収されます。
無言で立ち去ろうとするペッツに、ラハルが例の調子で「アンタはそれでいいの?」と問うんですよ。
ペッツはラハルを無視して歩き去るんですが、でも気を失っているカナブン(河本カナ)の髪飾りをそっと自分のものと交換して行くんですね。
こういう、言葉では一切気持ちを表さず、演技で饒舌に描くタイプに私はすこぶる弱いです。
私にとってはオルタナも「SFロックカルトアニメ」
「17歳がいつまでも続くと思ってるぅ~?」というラハルのアオリ文句にもあるように、前作も今作も、ロックアニメらしく「大人」「子供」というレッテルが火花を散らしています。
「宇宙人は歳取らないしィ~。永遠の19歳だしィ~。」というロッカースタイルのラハル。
対する今作の4人の17歳女子高生は、それぞれが全然別のスタンスで大人と子供というレッテルに向き合っています。
このあたりがいわゆる青春群像劇です。
結局、巨大アイロンに対抗するだけのエキゾチックマニューバ(とかいう不思議パワー)を出せるのは「今の普通が永遠に続くと思って何がいけないの」という考えのカナブンなので、物分り良く大人のルールに迎合するような「大人びた子供」&「大人びた大人」を全否定しているのも前作と同じですね。
例えば貧乏な家計をアルバイトの掛け持ちで支え、過労で倒れてしまうほど苦労しているのにそれを周りにおくびにも見せないモッさん(本山満)のエピソードがあります。
彼女はそんな境遇の中、寝る間も惜しんで自分の夢であるファッションデザイナーを目指してコンテストの応募作品を作っています。
カナブン、ペッツ、聖という3人の友達は彼女を助けようとしたり、拒絶されたり、いかにも青春っぽい紆余曲折を経てとうとうコンテストの日を迎えます。
結果、彼女の作品は入賞しません。
まぁ、ここまでは良くある話です。
モッさんは「頑張ったけど、仕方ない、結果が全てだ。でも・・・楽しかったよ。」と物分り良く納得しようとするんですが、突然偽モデルとして乱入したラハルが、優勝作品ではなくモッさんの作った服を着てステージに立つんですね。
ルックスもスタイルも良いラハルがモッさんの服を着てステージに立ち、堂々とランウェイをキャットウォークする姿を見て、観客はこれが優勝作品だと思って喝采します。
審査員だけは当然「ん?違うぞこれ、誰だお前?!」と騒然となり、結果コンテスト会場は大乱闘の場となって、最後には跡形も残らないほど徹底的に破壊されてしまいます。
このエピソードを観て「何だこのオチ。本当の優勝者がかわいそうだ。皆平等に、フェアにコンテストに臨んでいるのに何てことするんだ。モッさんが優勝できなかったのは、彼女の努力、友情、勝利が足りなかったからだろう。」
と憤慨するような人は、そもそも「フリクリ」という作品を楽しめないと断言できます。
まず、ラハルはモッさんが貧しい家庭で、努力に努力を重ねて苦労したから彼女の服を着たわけではありません。
彼女の服を着たのはモッさんに同情したからではないのです。
ラハルがステージに出る前に、控え室で「あ?何でスーパーモデルのアタシがこんな地ッ味~な服着なきゃなんないのよ!フザケンナ」と騒いでいる会話が聴こえてきます。
「地ッ味~な服」というのは本来このコンテストで優勝作品として選ばれたものです。
彼女はここで「スーパーモデルのアタシにふさわしい服はコレだ」という意味で、モッさんの服を着たんですね。
どういう事か。
大人であれば、皆平等に、フェアになんて前提が大嘘である事は誰もが知っている。
大人の事情ってやつで、コンテストなんて、最初から優勝が決まっている、仕組まれた茶番なんて事が普通にありえる。
下らない大人が仕組んだコンテストで、胡散臭い審査員に選ばれなかった、そんな事に納得してどうする、というのがラハル姉さんの主張でしょう。
そもそもそんなモノを目指すなよと。
大人の仕組んだ舞台の上で戦うなよと。
コンテスト会場をメチャクチャに破壊するというオチは、やり過ぎでも演出ミスでもなんでもありません。
下らない大人が才能も未来もある子供をバカにしてるんじゃねーよ、というラハル(=この作品の作り手)の主張なわけです。
どうでしょう、本来の優勝者が選ばれたシーンの違和感「えぇ~わたしぃですかぁ?ほんとにィ~信じられなぁ~い」という調子の嘘くさいキャラクターづけや、いかにもインチキ臭い審査員のキャラクターデザインが違った見え方をしてきませんか。
プログレも必ず劇場へ観に行きます
正直オルタナが「期待を越えて来た」かと言うと、そうでは無いです。
まぁ「期待通り」ってところでしょうか。
ラハルのクールさは衰えてないですし、ガイナックス臭いSF設定はやっぱり面白い。
私は「トップをねらえ」は1よりも断然2の方が好き派なので。
自分は「前作の続き」を期待していた訳では全く無いので普通に楽しめましたが、「オルタナ」で前作の続きを観たかった人には残念な結果でしょうね。
次の「プログレ」が話的にどういう位置づけなのか知りませんし、どうなったのか良く分からない「オルタナ」のラストシーンと繋がるのかも不明なんですが、たぶん自分は楽しめる予感がしています。
「オルタナ」のラストではイベント・ホライズンとか出てきちゃいましたが「DARKER THAN BLACK 流星の双子」や、ラース・フォン・トリュアー監督の「メランコリア」を彷彿とさせる、壮大な終わり方になってます。
この辺りも、いかにも気取ったSFって感じで好きですね。
フリクリ オルタナ | 総監督:本広克行
監督:上村泰 脚本:岩井秀人 キャスト:新谷真弓 制作会社:Production I.G 公開:2018年 135分 |
私は好きですが、一般受けはしないでしょうね |